耕している感覚、あるいはキッチンの窓枠に棚を"作りかける"までの顛末

アクセスがよく、それなりに広く、トイレバス別であり、2口コンロが置け、そして許容し得る家賃となると必然的に築古マンションに辿り着く。前の部屋より支払額は増えているはずなのに、あれやこれやの利便性が一部を除いて落ちているので、屋内だというのに部屋の中で暮らしを耕している感覚になる。

扇風機みたいな換気扇なんて、祖父母邸でしか見たことないんだが!

マグネットが付けられる換気扇に、突っ張って収納を確保できる吊り戸棚のなんて幸せなことだっただろうか。シンク下の収納というのは、料理をしている真っ只中においてどうにも手を伸ばしにくく、自分にとって見える範囲に調理器具が吊り下げられることこそが、キッチンの利便性の全てと言っても過言ではない。

ということで。

キッチンの窓枠

棚を作りかけたり、

お手洗いに置いている

ついでに棚を作ったり、

カーテンレールの上

もいっちょ棚を作ったりした。

前の部屋で使っていたお手洗い用の突っ張りラックを同じように使うには、斜めに低くなる天井に阻まれ高さが足りず1、しかし掃除用具をお手洗いの外に置けば取りにいくのが面倒で掃除をしようとも思えない怠惰な人間であることは理解している。

また、前の部屋でも大きい窓のカーテン上に東京駅限定のきゃんわいい萩の月2の箱を飾っていたが、カーテンに引っかかっては頻繁に落ちてきて、その度に戻していた。今回はカーテン前にベッドを設けていないので、背伸びをすればかろうじてカーテンレールに指を掛けられる程度の身長では、箱を元の位置に戻すのが面倒になるだろうと容易に想像がつく3

キッチンをいい感じにするために、どうせホームセンターに行くのは決まっていたのだから、それぞれついでに解決を図った形だ。

いや、DIYすると安く収められると巷では言うけれど、正直既製品を使ったほうがずっと楽だし、綺麗だし、丈夫だし、労力まで含めれば安価だと思う。だが、それぞれ既製品に収まらないスペースだったので致し方なく、初めてのDIYならぬDo It Myselfを試みることにした。

これが要件定義というやつか?🔗

お手洗いの掃除用具用収納棚はラブリコを突っ張っただけだし、カーテン上の棚は買ってきたL字金具をつけるのさえめんどくさがって、とりあえずカーテンレールの上に置いただけなので、材料を買う前にやったことといえば愚直に長さを測っただけである。

一方、キッチンの窓枠棚については、キッチン奥の空白を埋め作業台としても使う目的で設置するメタルラックや、調理中はまぁ開けることはないと言っても大きい収納であることは明らかであるシンク下の収納スペースと併せて、理想のキッチンを作る一環として存在するため、窓枠自体の大きさを測ることはもちろん、いったい自分は何を持っていて何を持つ予定があるのか、そしてどこに何を置くとスムーズに動けるのか、まずはざっくりスプレッドシートに書き出していく。

悩ましいのは調味料だった。

特に油類を窓枠で保管することは品質上問題ないのか?と幾度となく逡巡するも、どう考えてもコンロの方向を向いたときに真ん前にあるほうが動線が綺麗なので、窓枠に置くことに決める。窓枠棚への収納方法は、何らかのフックまたは突っ張り棒などを使い吊るす、あるいは棚板を設置して置くの2択なので、どの程度のスペースがあれば吊したいものを吊るせ、置きたいものを置けるのか、それぞれの方法別に収納すべきものを書き出して、棚の高さを決めていく。また、吊るすとしても窓枠の中に吊るしたいのか、あえて窓枠の外に吊るして手に取りやすいようにするのか検討する。

何をどこにしまうべきなのか、それにあたりどの程度のスペースが必要なのか。それがざっくりと決まったところで、CADなる人間様の叡智に触れる必要なくここまで生きてしまったので、Canvaを使って平面図を作り、あーだこーだビールを飲みながら棚板を置いたり消したりして、必要な木材の長さやフックの個数、ねじの仕様を確定していく。これでホームセンターにいけば簡単に調達できるぜ!と意気揚々と拳を上げながら眠りにつく。

ホームセンターに行く🔗

地元には大きなホームセンターがあって、家から車で15分程度だったのもあり、何かと行く機会があったが4、上京してから行くといえばせいぜいハンズで、あれはおしゃれな雑貨屋さんだと思っている節があることから、久々にホームセンターというものに足を運んだ。そうは言っても地元にあるような大きな店舗ではないが、購入するのはすべて1×4という規格材。木材コーナーがあれば確実に購入できる。

しかし、ホームセンター初心者たる自分には、横幅と奥行こそ分かっていても、売られている木材の長さが行くまで分からなかった。どこでも同じなのか知らないが、少なくとも今回行ったホームセンターで売られていたのは3F(910mm)と6F(1,820mm)で、どう考えても自分で計算するより速いので、ホームセンターに着いて早々、ChatGPTに木取りを聞いてカットを注文したのだった。

さて、寝る前に「要件定義」をしたはずだったが、特に物を吊り下げる仕組みにおいて存在しない金具を妄想していたらしく、とにかくあれはせいぜい要求定義でしか無かったのだった。ホームセンターの木材カット依頼は非常に混雑しており、カットが終了するまでに時間があったことから、何が簡単に調達できるぜ!だと自分に向けて毒づきつつも、その場で売っているものでどうにかこうにか満足いくものを仕立て上げるために、頭を悩ませることになった。

初心者なんだからおとなしく店員さんに聞けばいいと思うが、天邪鬼なもので宝探しがごとく、それっぽいものを一つ一つ手に取り、いやこれは、それはと吟味するのをつい面白がってしまう。ようやく答えを出して木材を迎えにいったら、とっくにカットは終わっており、それなりの長さの規格材が梱包用のラップにぐるぐる巻きにされ、お客様用カートとやらの上に並んでいた。

6本が限界🔗

我が家からホームセンターまではバスで向かい、バスで帰ってくる。ホームセンターから最寄りのバス停まではGoogle先生曰く徒歩8分5と、何も持っていなければなんでもない距離ではあるものの、最大1.2m程度の木材を抱えて動くにはそれなりに遠い。今回、実際に運んでみて知ったことだが、1×4材は自分で運ぶには6本が重さ的に限界だし、1.2mくらいであれば脇に抱えるより背負ったほうが動きやすいし、背負っても意外と背中は痛くない。

何より、帰りのバスが空いていてよかった。

疲れたのでとりあえず色を塗る🔗

どう考えても一番気力を必要としているのはキッチンの棚だったが、そんな気力も体力も道すがら落としてきてしまったので、とりあえず楽しいことでもしようかと木材に塗料を塗りたくる。原色が好きなことを思い出す。

色を塗った木材たち

これはお手洗いの棚になるやつなので、このあと棚自体に触れることはほとんど無いだろうし、巷ではやすりがけしたほうが塗装が密着するとか目にするけども、断固として知りませんと突っぱねてとにかくひたすらに塗る。そもそもキッチンのついでに、と思っていた頃には塗装なんて面倒だしそのままとりあえず突っ張ればいいかと思っていたはずだったが、さすがに水はねがあるかもしれないキッチンの棚を無塗装というわけにはいかず、ウレタンニスを探すついでにふらふらしていたら、いよいよ自分で作るというのに好きなようにしなくてどうするのかと自問が始まり、塗料を買ってしまった。

それにしても、うろついている過程で見つけたというペンキュア<HAKE de PAINT>なるこの塗料、おそらくDIY猛者からしたら高価なだけの代物であろうが、大きいマニキュアがごとくハケが内蔵されており、そのままベタベタ塗るだけで目の前の木材が彩られていく——とてもよい体験だった。

エネルギーを完全に失ったが最後、購入しただけで満足して寝てしまう俺たち6にとって、行動に移すまでに必要とされるエネルギーは少なければ少ないほうがよい。とりあえず購入したものをバッグから取り出し、まとめられた木材を開放し、楽しいことのつまみ食いとはいえ塗装することができたのは、大きくこのペンキュアのおかげである。

ダークブラウンにするつもりだったんだ🔗

カーテン上の棚は本来ダークブラウンにするつもりでペンキュアも買っていたのに、お手洗いの棚を塗ったノリで、気がついたら不揃いな原色になってしまった。これは酒を飲んでいた影響に違いない7

そして事件発生: 窓枠にはまらないし、お手洗いにも突っ張れない🔗

塗装をしたあと、乾くまでに時間がかかることから、ひとまず買ってきた木材が無事に窓枠にはまるのか確認するも、どういうことなのか。事前に計算した通りに木材を購入したはずなのに、上と下の木材が長すぎてつっかえてしまう。計算は間違ってないと信じたいが、古い家なので歪みがあるのかもしれないし、レーザー計測機を使ったものの、もしかしたら何かがずれていたのかもしれない。

長い

ウレタンニスを塗るための下準備で購入した紙やすりで地道に削るも、2−3mm削るのにどれだけの時間と右の腕力が必要だろうか。ただでさえ歩くのが遅い中、木材を抱えて帰ってきた右腕である。ましてや、バスを乗り過ごしたせいでバス停1つ分余計に抱えてきた。遠い目をしながら「木材 2mm 削る」などと検索すると、先人たちは木工用ヤスリとやらを使っていることが分かった。

簡単に削れ過ぎるので逆に力加減した方が良い迄あり

とレビューで書かれている、のこヤスリというものを密林で追加購入する。なんてこったい。

そうこうしているうちに塗装が乾いたであろうお手洗い用の木材にラブリコを装着し、さぁこっちは完成だぞとはしゃぐも壁に引っかかる。なんてこったい。のこヤスリの到着を待つ。1回休み。

まぁ、伸ばすことはできないが縮めることはできるので、想定より大きくてよかったと思うことにする。

これが人生……🔗

のこヤスリは注文してから、たった12時間で届いた。ぬくぬく寝ている間に働いている物流関係の方々に感謝だ。ひとまず本数が少ないお手洗いの棚を削りはじめたが、どうもこちらは5mmほど削る必要があるらしく、カットしてしまったほうが早そうだったので、なぜか我が家に存在した鋸で切る方向に切り替える。断面はどうせラブリコの中なので、ガッタガタでも見えないのも大きい。 

ガッタガタ

3本あるうち2本切ったあたりで、そもそも突っ張る前のラブリコがもう少し緩められることに気づき、最後に残った赤の木材にひとまずはめて最大限緩めてみたところ、切らなくても入ってしまった。計算も計測も間違っていなかったのだろう。人生って感じするなと思いながら、養生として敷いている密林から届く包装袋を開いたものの上に散らばる木の粉を呆然と眺めていた。

ちょっとお休み🔗

キッチンの枠用の木材が長い問題をどうにかすべく、ひたすらにのこヤスリをかけていたら、昼を通り過ぎておやつの時間になってしまった。のこヤスリに詰まる木くずも気になっていたので、百均で安い歯ブラシを購入するついでに、マックに吸い込まれる。

シャカシャカポテト

28歳児になってもシャカシャカするのは楽しい(真顔)

削られているのは木材なのか?🔗

時刻は15:40を過ぎたところで、再度木材を削る作業に入る。

もうちょっと

モーチョイ

いけた

ヤッター
しかし、削らなければならない木材は他に3本……まだ塗装も組み立ても残っているというのに。削られているのは私の腕力か?あるいは心ではないか?

鋸投入

心と腕が折れそうなので鋸投入、精度は知らん。調整はのこヤスリに任せることにして、最大限薄く切ろうとする。

ここまできた

写真を撮ってPCに向かうとき、腕が小休憩に入る。もう少しで収まりそうな予感……

ニス

さらに腕の休憩も兼ねて、並行してニスを塗っていく。そして——

ギリギリ

入ったー!!!!!むしろ手前側だけ削り過ぎたみたいだが、見なかったことにして。四方を全部ビス止めしてしまうともう一度収められる気がしないので、左右と下のみ固定し、上の木材は載せるだけにしようとふと思ったときに気付く。あ、ビスの皿の分、厚み増して入らなくなるじゃんこれ。

とはいえ、狭いワンルームでこれ以上木材に場所を占領されても困るので、枠は一旦このままギリギリであることを活かして止めずにいく。俺、ホームセンター付近に行く機会があったら皿の部分まで穴を開けられるドリルビットを買うんだ……

一旦吊り下げようとするも🔗

中の棚の部分はビス止めしないと立たないのだが、一部だけビス止めすると木材が歪んでしまうのでは?という、ナンモワカラン素人的に懸念を抱く。現時点ではそんなに物が多いわけでもないので、「置く」のは置いておいて、一旦「吊り下げ」部分のみ着手しようと、ひーとんというなんともかわいらしい名前の金具をとりあえず左右の木材につけてみる。

ひーとん

2.4mm程度の太さらしいが、下穴は1mmでもうまくいった。むしろ大きくなくてよかったのかもしれない。念のため、ドリルビットの先端から8mmのところへ、それっぽいマスキングテープが存在しなかったので、文房具箱から掘り起こしてきた栃木名物レモン牛乳マスキングテープを巻く。

しかし、己の不器用さをみくびっていた。無事に地面と垂直に固定された2つのひーとん間を針金で結ぼうとするも、うまく針金を操ることができず断念する。本当は張った針金にS字フックのつもりだったが、今となってはテキトーなフックを木材に固定してそこに適当な長さのチェーンをかけるのが現実的なのではないかと思っている。何はともあれ、棚よりも吊り下げが使えないほうが厳しいので、早いところ第2回ホームセンター祭りを開催せねばならない。

やっぱり🔗

正直既製品を使ったほうがずっと楽だし、綺麗だし、丈夫だし、労力まで含めれば安価だと思う

これまで以上にそう思うようになった。既製品がうまく使えるのなら、それに越したことはないと感じる。これは不慣れで何もかもが大変だったからそう思うのであって、慣れて楽に物が作れるようになったら楽しくなったりするのだろうか?

余談:今日のハイライト🔗

夕飯を作る気力がないので何か麺類でも買おうかなと行ったスーパーで聞こえてきたXPの起動音


2025/1/13(月)追記

終わった🔗

完成図

さらに丸3時間ほどかけてひとまず終わらせた。棚板がめちゃくちゃ曲がっているが、それを直す気力がないので、しばらくはこのままいくことにする。だが、いつの間にか私の手元にあったという、昭和レトロな感じの急須が割れてしまうと特に泣くしかないので、落下防止バーを3本ほど追加することを検討している。

(棚板の幅が60cmなので、柱になっている板に固定するとしたら60cmに加えて4cm弱横幅が必要になるのだが、そんなものは売っているのか?)

あれはハンガーバーとかアイアンバーとか検索すれば、それっぽいものが出てくることがわかった。木材同士だと半ネジがよい。下穴は木材を組んでからビスの7割くらいの長さで開ける。皿取錐ビットを使えば皿取と下穴開けるのが一気にできる。6.35mmの六角軸なら他社のビットでも互換性がある。ウレタン塗装は水に強い。丸い金具はひーとん、L字金具はよーおれ。直角にしたい木材同士を仮止めするにはコーナークランプを使う。もう二度とやりたくないけど、やらなかったら知らなかったことだらけだったので、やってよかった。もう二度とやりたくないけどね。

旧居でもカラーボックスを組み立てるのに電動ドライバーを使っていたはずだが、今日初めて充電が切れて、充電切れってあるんだな……と当たり前のことに驚いてしまった。電動ドライバーの充電をする間に自分の充電をするにも、まぁそんな気力もないので、いつか奄美大島で買ったイトメンのチャンポンを食べていた。

チャンポン

どこかをふらつくとき、だいたいスーパーに行っているはずなのだが、なぜ奄美に行くまで見たことがなかったのかは永遠の謎である。


  1. 高いところに棚を突っ張ると、低身長な人間は埃を落とすという発想にもならなかった、という反省もある。

  2. https://www.sanzen.co.jp/haginoshirabe-koh/

  3. 矛盾。あるいは埃を落とすことを最初から諦めている。

  4. ただし、かつて子どもだった自分にはフードコートでひたすらにビビンバを食べていた記憶しかない。

  5. だいたい1.5倍かかる。

  6. 「みんなそう思っている」の「みんな」とだいたい一緒。そんなやつはいない。いるのは俺だけ。

  7. 買ったものを使わない、すなわち無駄遣いへの渾身の言い訳。僕ビール君ビールは缶も度数もかわいい。

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