暮らし方を忘れてしまった

息こそしていたが、丸1年と少しくらい暮らすことをさぼってしまった結果、暮らし方を忘れてしまったらしい。これは何も、小難しい手料理を作る方法でも、念には念を入れたお風呂場のカビ防止方法でも、アロマを炊いた極上の睡眠環境を作る方法でもなく、テキトーに物を作って食べたり、ゴミをまとめて正しい曜日に出したり、1週間に1度くらいは洗濯をしたり、そういう雑でもいいからとりあえず衣食住を整えることを忘れてしまった。だと言うのに、冷蔵庫にそれなりに物が入っている。形から入る悪い癖だ。

引っ越しを経て強制的にリセットされたからには、もう少しばかり息を吸って吐くばかりでなく、暮らすことを覚えたい。そんなようなことを思いながら、ダンボールが積み上がり散らかった部屋の片隅でキーボードを打っている。前の部屋でとりあえず買った収納家具をいつかは買い直そうと思いながら、徐々に暮らす気力を失っていたことを思い出し、収納家具の類を全て置いてきたらダンボールだらけである。一度失敗したからには今度こそ気に入る形で収納を整えたいのだが、本棚を積み上げられる日はいつになるのだろうか?

天板を待つ机の脚を眺める。脚が収まるダンボールを捨てるべきか、注文もしていない天板が届くまでそのままにしておくべきか、それが問題だ。机の大きさが決めきれない。暮らすのが苦手なくせに、なぜそう検討事項を増やすのか。明らかに合理的ではなく、暮らすことを早めるためには既製品を買うべきなのだが、それでも使いたい脚があったのだから仕方がない。また気に食わないものを手にしてしまえば、いつか暮らせなくなる。

思い起こせば前の家に住み始めた当初は、少なくとも作り置きもしていたし、定期的に掃除もしていたし、あれ?それしか記憶はないのだが、まぁそれでも初めての一人暮らしで高いテンションのまま、何かしら積み重ねた暮らしがあったはずで、なのに感覚的に無なのはなぜなのか、全く分からない。


生活を整えたいと思っている自分もいるけれど、同じくらいめんどくさいし、少しだけでも前に進めているのだからいいのでは?と思う自分もいる。そもそも、生きてるだけえらいということにしておきたいよなー。汚れたまま持ってきたガスコンロ半分だけ磨いたし、電気ケトルにクエン酸放り込んで沸騰させたし、プラスチック洗って捨てられてる! それだけでえらいじゃないか!

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